まじろ帖

日々のこと。

2016-01-01から1年間の記事一覧

水を飲むみたいな

コーヒーを飲まなかった頃、というのは多分大学生くらいの時で、じゃあ一体、途方もなく長い時間があったというのにあの頃、私は何を飲んでいたんだろうと不思議に思う。 学校の近くに中国茶屋さんがあって、目の前のポットからいくらでもお湯を継ぎ足してよ…

たった

窓から夕方の光がたっぷりと射し込んで「眩しい」と言って笑った。 冬の風が吹く乾いていて眩しい外の世界を、暖かい場所から眺める。 たったそれだけのことだ。 たったそれだけのことだけれど、眺めるという時間も並ぶ距離も許されている。 それは、贅沢な…

そしてまたそっと光ったり

「クリスマスマーケット、去年は来なかったね」 とぽつりと言う。風が冷たくて、人の流れが早い。食べ物を売る屋台ばかりが立ち並び、お腹が空いている人には多分ちょうどいいのだろう。温かいワインもソーセージも。 「あれは一昨年?もっと前?」 12月25日…

簡単なこと

山と空と夕方の境目をただじっと見ていると、たとえば10年前の自分が何を考えながら生きていたか思い出せるような気がする。気がするだけだから、実際に具体的な胸に込み上げるような何かをしっかり手にするわけではないけれど、それでもこうして立ち止まれ…

夕方

ラディッシュをもらったので、ポン酢とバターで炒める。 魚を焼いてお味噌汁を作り、適当なサイズに切ったトマトにハーブソルトを振ってオリーブオイルを回しかける。 夕方がこうして過ぎていくのは、多分良いことなんだろう。

スープ

冬の朝、食欲がないなぁと思う時、インスタントのスープがあるとやっぱり楽だ。丁寧にたくさん野菜を切って押し麦を入れてコトコト煮て自分で作るスープも美味しいしほっとするけれど、お湯を注ぐだけで温まれるというのは、すごく正しいことのように思う。

晴れた日は

カサカサと気持ちのいい道を歩く。 冬は、いろんなものがみんなぱりっと乾燥していて気持ちがいい。そのままもっとぱりぱりに砕いて細かい粉みたいにして全部飲み込むとか、もしくは風の強い場所からばーっと撒き散らすとかそういうふうにできたらいい。その…

あれ

いちょうの葉っぱを拾って歩く。 くるくると回してちらちらと黄色が回転するのを見ていると、ちょっと笑いたくなってくる。 貰い物の銀杏をジップロックの袋に入れたまま台所の引き出しにしまっているんだった。 「そうだ、あれを食べなくちゃ」 と思う。ユ…

冬の素敵

11月があっという間に終わってしまって、つまりクリスマスまであともう一ヶ月ないということになる。 早いねえ、とサンタのおじさんに話しかける。 温かい料理を作りたくなるし、作っていいのが冬の素敵なところだね、と。 自分一人のために料理をする気には…

ずっと

「じいちゃん、笑って」 と言うと、 「おう」 と答えてにっこりする。 じいちゃんのこの眉をきゅっと寄せた笑いかた、大好き。 「じいちゃん、元気」 と聞くと、 「そうだな」 と頷く。 じいちゃんに聞いてみたいことがたくさんある。 じいちゃんはいつだっ…

宇宙人くらい

エンゾの体はつるりとしていて冷たい。 くるりと器用に小さく丸くなって私のセーターに顔を押し付け「ぶーぶ、ぶーぶ」と音を出す。 犬はこんな声を出さない。 猫は、なんだか宇宙人くらい遠く感じる生き物だ。 でも、せめて彼らに対してだけは、私は清潔で…

一握りの

日々は我慢と寛容と憎しみと一握りの愛で成り立っている。 同じものを食べ、同じ場所で呼吸をし、眠り、繰り返しつかうお箸、コップ、歯ブラシ、石鹸、カミソリ、耳掻き、爪切り、ボールペン、ファイル、印鑑、セーターやシャツや靴下。見たい番組、聴きたい…

大事なこと

やけに言葉が胸に刺さる。 大事なものは大事にしなければいけないんだって、そんなのは当たり前のことなのに、耳たぶに新しくひとつ開いた穴が痛むので、まるでとてつもなく難しいことを宿題に出されたような気になってしまう。 その病院ではヘリックスは開…

夢が詰まったみたい

デパートのカフェでお茶を飲んでいたら、ガラスの向こうにもう何年も会っていなかった友達が立っていて、目があって「え?」と思ったら「じろちゃん」と声をかけてくれた。 こんな偶然てあるんだね。 今度またゆっくり会おう、と話して別れる。 引き戻される…

平日のお昼

火曜日に香川で別れた友達が昨日から今度は東京へ。 ポテトクリームを食べに行ってきた。 「平日のお昼にワインなんて幸せだね」 と言って背の高い友達が隣で笑う。

骨も肉も

帰る場所を少しずつどこにもなくしている、というのがその時私が感じているたったひとつのことだった。 それに気がついてはいたけれど、私は何もしなかった。そのまま緊張がピークに達した時、曖昧さが人も自分も傷つけて全部をざらりざらりとすり潰していく…

〆は

飲んだあとの〆はカレーうどんだと香川の人が言うので連れて行ってもらった鶴丸。 熱くて驚く。 友達夫婦と夜の高松にいるのは、本当に私かな。 火傷した口の中がひりひりするので「これは、私の痛み」と口に出してみてホテルの部屋までの廊下を歩く。

渦の上

鳴門海峡に連れて行ってもらった。 渦の上に立つ。 「私がもし地獄に堕ちる人間だったら、このガラスが突然パッてなくなったりするかな?」 そんなことを言おうとして馬鹿みたいだと思い直し口をつぐむ。 青と白と緑が、足の下で強くうねる。 幻滅させてごめ…

古めかしいアブサン

香川に来た。もう5年くらいの付き合いになる友達に会いに。妹には赤ちゃんが生まれた。お姉ちゃんとその旦那さんと鉄板焼きのおいしいお店に行き、ビールもワインもたくさん飲んで、ウニとトリュフのオムレツを食べたりからすみと水菜の焼きそばを食べたり…

柔らかい

おばあちゃんから翡翠の指輪をもらう。 柔らかい緑は、私が一番好きな色。

準備

クリスマスの準備がはじまった。 日に日に外は寒く、体が固くなるのに、温かくて幸せな気持ちは増えていく季節だ。

自分たちだけの

雨が降って寒いので窓を閉めきったままにしておくと、くしゃみが出る。もともと猫アレルギーもちなのに二匹の子猫がやってきたのでちょっと息が苦しい。空気清浄機には「勉強中」という静かなモードがついていて、確かにそれはゴーッと音を立てるよりは遥か…

知らないこと

写真集を見ていたじいちゃんに「これ、読める?」と聞いたところ「オーストリアだろ?」とあっさり。 アルファベットは今でも簡単に読めるんだなぁ。 じいちゃんについて知らないことというのは、意外にある。

タイガー

エンゾがあまりにどたばたと大騒ぎをするので、着ていたTシャツのDJタイガーを見せる。 「悪いことすると、DJタイガーが怒るよ!」 神妙な顔をして聞いていたけれど、すぐにまた暴れだしていた。

昨日起きた出来事

「はい、うさちゃん」とぬいぐるみを差し出してあやそうとする君はほんのちょっと前までおんなじような赤ちゃんだったのに、と言ってもきょとんとするだけだ。 「昨日楽しかったね」 の昨日と言うのは過去のことぜんぶだというのがおかしかった。ずいぶん盛…

3個

ケーキ3個食べちゃおう! とユークが言った。 私たちは二駅分歩いて帰った。

おそろしく賑やかに

ある日、小さな生き物たちが家にやってきた。 名前はエンゾと山椒。 近くの動物病院に保護されていた二匹が、とにかく我が家にやってきたのだ。 毎日は突然おそろしく賑やかになった。

ゴジラ

この前シン・ゴジラを観に行った時、ゴジラの第一形態があまりにダイアナに似ていて、もうダイアナにしか見えなくなってしまい、だからダイアナがいじめられているような気がして涙が出たし、お腹も痛くなった。でも確かに無人在来線爆弾はかっこよかった。 …

耳たぶ

マンションの玄関脇のこのわさわさしたところが気に入っている。去年も秋はここに葉っぱがたくさんたまっていて「いいところに引っ越してきたなー」と思って楽しかった。 諦められないものをもう見ないようにするのは、体に穴があくみたいだ。寒くなってくる…

ホットケーキ

朝ごはんを食べに行く。 「パンケーキあるかなぁ」 と言うと、 「パンケーキじゃなくてホットケーキでしょ。ロイホは」 と言われた。そうだったかな、と首をかしげながら「ロイホ」ってなんだか照れてしまって私はやっぱり言えないと思った。 丸いふわふわの…