まじろ帖

日々のこと。

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「楽しければ笑う」と私は言い放った。言ったそばから後悔したけれど、でももう言ってしまったし、どちらにしろそれは本当のことだから仕方なかった。 「その目付き」と、子供の頃からママもパパも言った。時々うんざりしたように。わからないのは、私に流れ…

手放して

ありふれた景色を見て、喉の奥がぎゅっとなる。建ち並ぶ古いアパルトマン。カーテンのない窓から見える高い天井。楽しそうな話し声。音楽。カチャカチャと鳴るお皿やグラス。 この街へ来るようになってからもう何年かが経ち、物珍しさはなくなった。ここに住…

瞬間だけ

たとえば恋をして、これがもう全部最後だと思ってもどんなにそうであって欲しいと願っても、その続きが必ずあるということが昔はひどく怖かったけれど、今はそれらは救いのように思える。叶わないから足りないと思うのは間違いだ。見たものすべてを私は深く…

習慣

なだらかな緑の丘がどこまでも広がり、陶器みたいな色をした牛が転々と草を食む。切り取ったように四角く菜の花がところどころに鮮やかに揺れていた。雲が低く広く立ち込めて、雨が降ったり青空を覗かせたりせわしないのも良かった。TGVに乗ってパリまで移動…

パレードの終わり

マルセイユに食事をしに出かけ、バスで戻ってくるとエクスアンプロヴァンスの街ではちょうどカーニバルのパレードが始まったところだった。子どもたちがハロウィンのように仮装をし、ピエロがカラフルな紙吹雪の詰まったパックを売り歩く。ミラボー通りの人…

朽ちて

村は小高い丘を囲むようにして作られていて、家々を眺めながら坂道をのぼっていくとほとんどの村の頂上には古い教会があるのだった。それらのほとんどはもう使われなくなっていて、朽ちていく建物の周りを草や花が覆い、のんびりとした猫がいる。今も昔も、…

今年は寒い、と一年ぶりに会ったオリーブさんが言った。街の真ん中のマルシェで、オリーブの木で作ったフォークやスプーンやチーズ入れ、ボウルなどを売っている人なので、私はオリーブさんと勝手に呼んでいる。名前は知らない。2年前に初めて話してバター…