ダニエーレのラザニア
ダニエーレの顔は知らない。
ダニエーレは、あるイタリアンレストランの厨房にいる人だ。
去年も一度ここにお昼ご飯を食べに来た。
ランチの時間で、店内もテラス席もとても混んでいた。
ウェイターたちはみんな陽気で「ボンジョルノ!」「プレーゴ!」と叫びながらテーブルの間をひらりひらりと動いていた。オーダーを取り、それから大きな声で「ダニエーレ!」と厨房に声をかける。
テーブルからはダニエーレの顔は見えないのでどんな人なのかはわからないけれど、私のラザニアはダニエーレが作ってくれた。
この一年、ことあるごとに私とユークは「ダニエーレのラザニア!」と言い合った。それは、美味しいものや楽しいことの象徴のような言葉だった。
そしてこれが、今年のラザニア。
耳をすませてみたけれど、厨房に果たしてダニエーレがいたのかどうかわからない。「○×△エーレ!」という言葉が聞こえたような気がするけれど、どうだろう。
ダニエーレのラザニアだったら嬉しいんだけど。
とても美味しかった。