トランプ
ユークの仕事のあと、待ち合わせて映画を観た。
イタリアの景色が見たいとユークが言うので「天使が消えた街」。
実際にあった殺人事件をベースにした映画で、シエナの街の石畳が続く古く重い道が美しかった。
終盤、判決がくだったあと、遺族の悲しみに焦点があたる。時間がどんなに経っても傷は癒されないのだろう。時間が解決してくれるなんて、そんな優しいことは本当にあるんだろうか。
日が暮れていく中、ホテルのベランダでトランプをするシーンがあった。何度でも繰り返し、空が、薄い青から赤へそして紺色へと変化していく間中ずっと続く子供じみた温かなゲーム。
もう10年近く前の夕方、アムステルダムのホテルで誰かが持っていたトランプで私たちは何故か七ならべを始めた。グループの後輩の一人は東大卒の賢い子で、ふだんまったくそんなことはひけらかさないのに、七ならべにやたら強いので、やっぱり頭がいいんだなと思った。私たち四人は笑いながら何度も何度もトランプを配り直し、七ならべをした。窓の外が暗くなってきてお腹もすいて、それでもゲームをやめたくなくて近くのスーパーに食料を買いに行き、帰ってきてまた七ならべを始めた。夜中まで私たちはベッドの上で何かにとりつかれたかのようにトランプをしていた。
生きているということは、本当に奇跡だ。
今は、まだもっと生きていたい。