夢の中で32歳の
ぴょいーんと跳ぶところを見た。
しなやかだ。
しなやかでありたいと思うけれど、私はなにぶん頭が固い。
ここ何年もこんな風に跳んだことないなぁ。
変な夢を見て明け方に目が覚めた。
開けたままの窓から柔らかい雨の音と匂いと気配がいっしょくたになって流れ込んできていた。窓を閉めようにも、それはユークの側の窓なので、乗り越えていくか、起き上がってぐるりとベッドを回って行かなければ閉めることは出来ないのだった。
変な夢のせいで首の辺りにじっとりと汗をかいていて喉も嫌なふうに渇いていた。
起き上がって窓を閉め、台所に行ってコップ一杯の水を飲み、椅子に少し腰かけでもすれば、夢の気配は追い払えるんだとわかっていた。でも、そうはできずに、私はただ寝転がって天井を見つめ、馬鹿みたいに雨の音を聞いていた。
夢の中の私は32歳だった。
夢の中で32歳の私は笑ったり泣いたりした。
32歳というのは私の人生の中で楽しいことが全部詰まっているみたいな時だったのだ。
夢の中で32歳の私はキリンを捕まえられずに四苦八苦していた。
そんな意味のわからないことさえ、32歳の私には幸せだった。
夢の中の幸せほど、後味の悪いものはない。
窓を閉めることをあきらめて、私は布団をかぶった。
キリンはいなくなってしまったから、もう一度眠って、また別の幸せで後味の悪い夢を見るしかないのだった。