骨も肉も
帰る場所を少しずつどこにもなくしている、というのがその時私が感じているたったひとつのことだった。
それに気がついてはいたけれど、私は何もしなかった。そのまま緊張がピークに達した時、曖昧さが人も自分も傷つけて全部をざらりざらりとすり潰していくくらいなら一番苦しいことを一瞬だけ選べばいいんだと思った。
猫たちは落ち着いていて、戻ってきた私におかえりと言うように寄り添い、いつもの不思議な声でめいめいに鳴いた。
おかえりとだけユークが言った。
骨も肉も、みんな。
体ひとつがあるだけで本当はいつでもどこにでも行くことができた。
あの時、逃げるんじゃなくて自信さえ持っていれば良かったのにと思った。