2017-05-14 手放して フランス ありふれた景色を見て、喉の奥がぎゅっとなる。建ち並ぶ古いアパルトマン。カーテンのない窓から見える高い天井。楽しそうな話し声。音楽。カチャカチャと鳴るお皿やグラス。 この街へ来るようになってからもう何年かが経ち、物珍しさはなくなった。ここに住んでしまえば楽だろうか。今もっているものを一度みんな手放して。 怒っているふうに見せなければ、私の中のとうに静まってしまった感情を見透かされるのでは、と思う。言葉にするのを躊躇う。一度でも口にしてしまえばもうそれは厳然たる事実だ。