まじろ帖

日々のこと。

グッドバイを歌うたびに泣いてしまう

窓を伝う雨が、私が覚えているものとはもう違うなんて当たり前のことだから、もっとしゃんとしていたらいいと思う。悲しくなる必要なんかない。

ママは、2週間も経つのにダイアナがちっとも大きくならないと嘆いている。小さい子はひ弱な気がするのだ。朝、ケージにかけてあるカバーをめくったら中で弱々しくなっていたり、いくつになっても細っこい体で、ハーネスからするりと抜けてしまったり、あっという間に私たちの近くからいなくなってしまったりするんじゃないかと不安になっている。

すぐに大きくなってくれたらいいのにね。そして、大きくなって聞き分けが良く思慮深く賢いダイアナが、ママが死ぬまででも、もっとずっとずっと私たちのそばにいてくれたらいいのに。なんて、そんな重いものを背負わせるのは小さなダイアナには酷だ。

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ものすごく凶暴なので、笑えてそれから泣けてくる。噛まれて痛くて嬉しい、なんてまだ生まれたばかりのダイアナには絶対に伝わらない。


私は、山口一郎さんじゃなくて良かったなぁと酔っぱらって歩く雨の帰り道で思った。
私が山口一郎さんだったらグッドバイを歌うたびに泣いてしまう。自分の作った歌を歌うたびに泣くなんて気持ち悪いから、本当に私は私で良かった。

だって私がちょっと涙ぐみながら雨のなかグッドバイを熱唱して歩いて帰ったって大したことじゃないだろう。

横断歩道の向こうには傘を持っているのにさそうともせず、ワイシャツの裾を全部ズボンから引き出してしまった若い酔っぱらいの男の子が立っている。

私だって出来ることならあんな風に雨に打たれたい。

今夜はなんだかめちゃくちゃだ。

世界はいつのまにかとても狭まってしまったので、私は濡れ始めたブーツを蹴りあげるようにしてユークの眠る私たちの部屋に帰らなければならない。

それは、安心なことだ。
でもとても窮屈なことだ。

明日は大丈夫。
体からは羊の煙い匂いがする。
でもこれはずっと昔、子供の頃にアメリカで知っていた匂いだ。脱いだセーターに思わず顔を埋めてしまった。