まじろ帖

日々のこと。

松本へ

 

今年もユークと松本へ来た。

写真を撮って、散歩して、一年ぶりの懐かしい大好きなお店に行く。

去年とは何もかもが違うけれど、私は元気です。
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カレー

じいちゃんのお見舞いに行くときによく寄っていたカレー屋さんに行く。目玉焼きとパクチーを交互にご飯をたっぷりもぐもぐ食べる。
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食べてももうじいちゃんには会えないけれど、ぺろりと完食してごちそうさまでしたを言う。

私は、今日も生きている。

じいちゃんは

じいちゃんが、昨日の夕方に旅立った。
この一年近く、子供の頃と同じくらいしょっちゅうたくさんじいちゃんのそばにいた。ラッキーなことに私は仕事を減らし、時間だけはたくさんあった。
じいちゃんは車いすにも座れなくなって、声も出なくなって眠っていることも多かったけど、でもじいちゃんはいつだって新しかった。
私が持っていったバムとケロの絵本を気に入って、音読すると興味深そうに目で絵を追っていた。
ママが持ってきた世界の美しいお城の写真集もずいぶんぶあついのに最初から最後までページをめくってもらってずっと眺めていた。
ミイラの飛び出す仕掛け絵本に目を丸くしていた。
じいちゃんは絵を描く人だったから、塗り絵帳を開いて色鉛筆を渡すと震える細い手で、すっすっと線を引いた。
「またね。また来るね」
と言うと、頷いた。
元日の朝、会いに行った時に「じいちゃん、お年玉ちょうだい」と私が言ったら目を見開いたのがおかしくてママと笑った。
2月4日、バースデーカードを渡すと頷いた。
98歳だって!やったね!と笑った。

昔、私が欲しい欲しいと駄々をこねたトトロの目覚まし時計を買ってきてくれて、ジリリリリと鳴る音が大きすぎてママに怒られ、じいちゃんと一緒に綿をはさんで改良した。
家に遊びに来るときに、本の間にそっと千円札をはさんでママにもおばあちゃんにも内緒でくれた。
半蔵門のじいちゃんの事務所の近くのレストランでタンシチューを食べてワインを飲んだ。まだ中学生だったけど、じいちゃんはあんまりそういうことを気にしない人だった。
数学を教えてもらった。この時ばかりは温厚なじいちゃんがイライラしていた。
美術で室内を描く課題があった時に、じいちゃんに手伝ってもらったらプロの絵になりすぎてしまっておかしかった。
小学生の頃、私が車の後部座席のドアを外から開けて、まだごそごそしていたのを知らずに車をバックさせ、じいちゃんは私の足を轢いた。白い靴にタイヤの跡がついた。

病院の看護師さんたちが「本当に綺麗なお顔ですねぇ。若い時すごくモテたでしょうね」と言っていた。
そりゃあそうだ。じいちゃんは、ずっとずっと男前で優しくて最高にかっこいい私の自慢のじいちゃんだ。

いなくなってしまって寂しい。
じいちゃんにもう会えないなんて変だな。
だけど、なにかと不便になってきていた体からじいちゃんがやっと抜け出せたことは嬉しくも思う。
じいちゃんはもう自由だ。
絵を描いたり本を読んだり、また出来る。
どのくらい先になるかはわからないけれど、じいちゃんにまた会えるなら私はこの先を生きるのも死ぬのも楽しみだ。
その時にはまた話すことがたくさんある。
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ぞわぞわ


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ぞわぞわする橋。

7月はだいたい体調を崩す。突然の暑さに体がついていかれない。猫たちと家でごろごろする日々。

モモに

松本に電車で行くのはそういえば初めてのことだ。 八王子からあずさ7号に乗る。 今回の旅のお供本は、ミヒャエル・エンデのモモ。 時間泥棒ときいても子供の頃はぴんと来なかったけれど、今はモモが近くにいてくれたらいいのに、と思う。 モモになりたかった頃はもう終わってしまったのか、と改めて開いた本を、読みながら少し驚く。

「楽しければ笑う」と私は言い放った。
言ったそばから後悔したけれど、でももう言ってしまったし、どちらにしろそれは本当のことだから仕方なかった。

「その目付き」
と、子供の頃からママもパパも言った。時々うんざりしたように。わからないのは、私に流れているのは自分達の血だというのに、見たこともない生き物を見るような顔をして私を見ていたことだった。押し黙ったまま、私は何時間も口をきかず、立ち上がることもしなかった。

「その目付き」と、ユークも言った。
恋人だった人たちはその言葉を言ったり言わなかったりした。
言わなかった恋人に、もしかしたら私は最初から最後までとても優しく礼儀正しく接していたのかもしれないし、もしくは私の表情になど興味がない男の人だったのかもしれない。
言った恋人のことはとても好きだった。優しかったり変わっていたり情けなかったりいい匂いがしたりした。とても好きでいる以上、相手を憎む気持ちに負けないでいることが常に私の課題だった。いつまでもそばにはいられない、と知っていて愛するなんて正気の沙汰じゃないと思っていた。私の醜さを押し付けて目の前から去ってもらうしか好きでい続ける方法を思い付かなかった。

 

ユークは黙って、それからシャツを羽織った。
「楽しくしようと、君はしない」
と言った。
楽しいことのすぐ裏側は、私が溜めてきたドロドロの吐瀉物だ。とてもじゃないけれどそんなものの上に何も見ないふりをして二人では立っていられない。


ユークが誰とも違うのは、いつまで経っても私を捨てようとしないこと。

このままいつかユークの骨に触ることになるんだろう。

何年先のことだかわからないけれどそうして、それからそういう人生だったと思うんだろう。


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