まじろ帖

日々のこと。

「楽しければ笑う」と私は言い放った。
言ったそばから後悔したけれど、でももう言ってしまったし、どちらにしろそれは本当のことだから仕方なかった。

「その目付き」
と、子供の頃からママもパパも言った。時々うんざりしたように。わからないのは、私に流れているのは自分達の血だというのに、見たこともない生き物を見るような顔をして私を見ていたことだった。押し黙ったまま、私は何時間も口をきかず、立ち上がることもしなかった。

「その目付き」と、ユークも言った。
恋人だった人たちはその言葉を言ったり言わなかったりした。
言わなかった恋人に、もしかしたら私は最初から最後までとても優しく礼儀正しく接していたのかもしれないし、もしくは私の表情になど興味がない男の人だったのかもしれない。
言った恋人のことはとても好きだった。優しかったり変わっていたり情けなかったりいい匂いがしたりした。とても好きでいる以上、相手を憎む気持ちに負けないでいることが常に私の課題だった。いつまでもそばにはいられない、と知っていて愛するなんて正気の沙汰じゃないと思っていた。私の醜さを押し付けて目の前から去ってもらうしか好きでい続ける方法を思い付かなかった。

 

ユークは黙って、それからシャツを羽織った。
「楽しくしようと、君はしない」
と言った。
楽しいことのすぐ裏側は、私が溜めてきたドロドロの吐瀉物だ。とてもじゃないけれどそんなものの上に何も見ないふりをして二人では立っていられない。


ユークが誰とも違うのは、いつまで経っても私を捨てようとしないこと。

このままいつかユークの骨に触ることになるんだろう。

何年先のことだかわからないけれどそうして、それからそういう人生だったと思うんだろう。


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