一握りの
日々は我慢と寛容と憎しみと一握りの愛で成り立っている。
同じものを食べ、同じ場所で呼吸をし、眠り、繰り返しつかうお箸、コップ、歯ブラシ、石鹸、カミソリ、耳掻き、爪切り、ボールペン、ファイル、印鑑、セーターやシャツや靴下。見たい番組、聴きたい音楽、出かけたい場所。帰ってくる場所。
一握りの愛は、これを捨ててしまえばもう何もかもが終わるよ、と常にささやく。しかも甘く。
日々は、私が眼を背けて生きるものばかりに囲まれている。
どうしたって勝てるわけなかったんだ。
馬鹿だなぁ。
ユークが鍋を作ってくれた。
「おいしい日本酒と食べよう」
と冷蔵庫から日本酒を取り出す。
考えるとわからなくなるから考えない。
冷たいとろりとした液体を喉に流しこむ。
「おいしい」
懐かしい声をきいた気がした。