ふいに視界が
コルドシュルシエルの下のバス停から反対側へ歩いていくと、細いハイキングの道がある。
看板の先に続く山道。
「行ってみようよ」
とユークが言う。
「村の全景を見てみたい」
と目を輝かせている。どちらかと言うと私はあまり歩くのが得意ではないのだ。
「せっかくだから頑張ってみる」
とは言ったものの、デッキシューズ程度の靴で、でこぼこの山道を登るのはなかなか大変だった。
「じろちゃん、ちょっと僕が先に行って様子を見てくる!ゆっくりおいで!」
と言うとなんとユークは、たたたーっと走って行ってしまった。
後ろを振り返っても前の方を覗いても、曲がりくねった長い道があるだけ。
野犬とか、出ないよね??
急に怖くなり、この旅の間ずっと頭を離れない「うんとこどっこいしょ」の歌を小声で歌いながら、仕方ないので私も歩いた。
「じろちゃーんん…」
という声が上の方から降ってきた。
「あとちょっとだよー!がんばれー」
とのこと。
私は「なーんでもできちゃうはずなんだー」という歌の続きを口ずさみながら残りの木立を越えていった。
すると、ふいに視界がひらけた。
そこは、風が強く吹く場所だった。
こうこうと風の音がした。
私たち以外、誰もいなかった。
広がる緑の真ん中に、コルドシュルシエルの村だけがぽっかりと浮かび上がっている。
ここが天空の村と呼ばれる理由はこれだったのだ。