まじろ帖

日々のこと。

黙って置いていってしまう人

午後、少しだけ晴れた。

仕事に行く途中、見上げた空が透き通ったように青かった。

空を見ると、それが晴れていても曇っていても、宮沢賢治の「告別」を思い出す。

中学生の頃に暗唱する宿題でもあったのかもしれない。どうしてだかわからないけれど、今でもけっこう覚えている。

長いので、全部ではないけれど。


云はなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけはしいみちをあるくだらう
そのあとでおまへのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまへをもう見ない
なぜならおれは
すこしぐらゐの仕事ができて
そいつに腰をかけてるやうな
そんな多数をいちばんいやにおもふのだ

宮沢賢治全集〈1〉 (ちくま文庫)

宮沢賢治全集〈1〉 (ちくま文庫)


黙って置いていってしまう人はずるい人だと子どもの頃「泣いた赤おに」を読んだ時から思っている。どんなに響く手紙を遺しても、黙って置いていってしまってはダメだ。だからこんなふうに言われても私だったら頑張れないと思ったのを覚えている。私は子どもの頃から筋金入りのヘタレだ。


もしも楽器がなかったら
いゝかおまへはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガンを弾くがいい



それがどんなパイプオルガンなのかはわからないけれど、きっと涙が出るほど眩しくて、優しい音を奏でるのだろう。