まじろ帖

日々のこと。

どこにも行きたくない

旅行と言ったってそう大袈裟なものではないので、支度も簡単だ。

簡単だけれど、支度をするということが好きなので、時間をかけて楽しんでいたい。

持っていく服。
持っていく化粧品。
数種類の薬。
ノート。
ペン。
文庫本。

旅行に持って行く本の内、一冊はいつも同じだ。

村上春樹の「遠い太鼓」

大切なのは分厚いこと。
それから内容をすでに知っているということ。

仕事に使うスーツケースのポケットには必ずこの本を入れていて、時差で眠れない夜「遠い太鼓」は何年もの間ほとんど私の御守りのようだった。

それがミラノでもロンドンでもパリでも、ニューヨークでもシンガポールでも広州でもシドニーでも、どこでだって幾度も繰り返し「遠い太鼓」を読んだし、どのページから読んでも構わなかった。大切なのは、安心していられることだった。


今年はあと二冊を持っていく。

銀色夏生の「石とまるまる」
武田百合子の「富士日記 」下巻

旅先で読みたくなるのは小説よりもエッセイや日記で、そのことに気づいた時、私は本当はもうどこにも行きたくないんじゃないかと思った。

f:id:urimajiro_o:20150406100353j:plain

だけど、初めて見る景色の色は、日常と同じかそれ以上の親しみをもってふいに目の前に現れる。