お腹がすいているというよりはきっと
実家の近所に移動販売のお豆腐屋さんが車でやって来る。
お豆腐、厚揚げ、油揚げ、がんも、白滝。
なんでも美味しい。
私は桜味の食べ物が好きで、とにかくこの季節は忙しいのだけれど、今年はこの桜豆腐があまりに美味しいので、大当たりだった。
「ハチミツとか黒蜜をかけてデザートにしてもいいんですって」
とママは言っていたけれど、私はそのまま食べるのが好きだ。
桜が好きで、でもいつまでもは見ていられなくて、それが寂しくて私は桜味のものを食べるのかもしれない。
好き=食べるが成り立つということに子どもの頃、わりと早い段階で気がついた。
「ううう、食べちゃうぞー!」
とトロールや狼や悪いキツネはいつも言っていた。
お腹がすいているというよりはきっと好きなんだろうと思った。
好きだから食べてしまいたい。
抗いがたい甘い衝動だ。