空
今年は寒い、と一年ぶりに会ったオリーブさんが言った。
街の真ん中のマルシェで、オリーブの木で作ったフォークやスプーンやチーズ入れ、ボウルなどを売っている人なので、私はオリーブさんと勝手に呼んでいる。名前は知らない。2年前に初めて話してバターナイフを一本買い、去年はスプーン2本を買った。今年はコーヒーを片手に自分の店をほったらかして近くをふらふらしていたらしいオリーブさんが戻ってきて、私たちを見るとごく普通に手を振り「Bonjour. Ca va?」と言った。「久しぶり。元気だった?」というところから始まり、とにかく今年は寒いね、という話に落ち着く。
「昨日は雪でも降るみたいに空が真っ白だった」
とオリーブさんが言い、そういうふうに説明出来るのはいいことだと思った。きちんと想像できた。白にももちろん種類があるわけで、その中でも「今にも雪が降りそうな空の白」というのを、私たちはお互い知っていたのだ。年に一度、晴れた4月の朝にほんの少し会うだけだというのに。
「starは、日本語では何?」
と言うので「星」と教えた。どうして?と聞いたら、たまたま思い付いた、と笑っていた。
近いような
暖かくて静かなところというのは、気持ちがいい。
それが本を読むために用意された場所だというのだからなおさら素敵だ。店内の誰も喋らず、でも誰かのための飲み物や食べ物の支度をする音が常に小さく聞こえていて、たっぷりと注がれたコーヒーからは良い香りがしている。
一緒にいても寂しいのなら、正直なところもうどうしたらいいのか私にはわからないのだった。つまらない喧嘩も顔を真っ青にして思い詰めたように声を震わせて話すことも、もうしてもしなくても同じだ。決定的なことは多分もうみんな知ってしまった。
猫たちは膝のうえで丸くなる時にくるりと彼らの細いしっぽを私の腕に巻きつける。それは優しくて誠実な行為だと思った。だからそんなふうになりたいと思って私も抱きしめてみたけれど、愛情はおろか殺意に近いような憎しみめいたものも私からは伝えることが出来ないらしかった。
昼間、電気をつけないままお風呂に入る。
湯気が白くのぼって窓の方へ消えていくのを見るのが好きだ。
なかなか書けずにいた手紙をやっと書き終えて便箋をしまい、コーヒーのあとに飲んだKOVALというジンがとても美味しかった。夕方、外で一人で飲むお酒はくっきりと強いものがちょうどいい。