まじろ帖

日々のこと。

晴れた日は

カサカサと気持ちのいい道を歩く。

冬は、いろんなものがみんなぱりっと乾燥していて気持ちがいい。そのままもっとぱりぱりに砕いて細かい粉みたいにして全部飲み込むとか、もしくは風の強い場所からばーっと撒き散らすとかそういうふうにできたらいい。その二つは全然違うことみたいだけど、どうせ同じ形で留めておけないのなら同じだ。

 

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ベランダに干していたバスタオルが風でばたばたとめくれて盛大にからまってしまったけれど、それでもきっちりと乾いていた。

冬の晴れた日は、これだから好きだ。

 

あれ

いちょうの葉っぱを拾って歩く。

くるくると回してちらちらと黄色が回転するのを見ていると、ちょっと笑いたくなってくる。

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貰い物の銀杏をジップロックの袋に入れたまま台所の引き出しにしまっているんだった。

「そうだ、あれを食べなくちゃ」

と思う。ユークがいない間の不摂生の塊みたいな体を暖かいコートに包んで、家までの道をとんとんと歩く。

冬の素敵

11月があっという間に終わってしまって、つまりクリスマスまであともう一ヶ月ないということになる。

早いねえ、とサンタのおじさんに話しかける。

温かい料理を作りたくなるし、作っていいのが冬の素敵なところだね、と。
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自分一人のために料理をする気にはならないので、ユークが何日か家を空けるときは私はもっぱら外食ばかりだ。誰かといないと時間を過ごせなくなってしまった。すっかり。

「今晩一緒にごはんを食べない?」

と聞くと

「いいよ」

と答えて必ず時間をつくってくれる友人たちに私は甘えきっている。

ずっと

「じいちゃん、笑って」

と言うと、

「おう」

と答えてにっこりする。

じいちゃんのこの眉をきゅっと寄せた笑いかた、大好き。

「じいちゃん、元気」

と聞くと、

「そうだな」

と頷く。


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じいちゃんに聞いてみたいことがたくさんある。

じいちゃんはいつだって何でも知っていて優しくてかっこいい。私がまだ中学生だったときにじいちゃんの半蔵門の会社の近くのフレンチレストランで「肉料理にはワインだな。秘密だ」と言って赤ワインを飲ませてくれた時は、嬉しかった。じいちゃんに似合う、じいちゃんに恥じない人になりたいと20年も前から思ったままだよ。

もっともっとずっと一緒にいたい。

話をしたい。

宇宙人くらい

エンゾの体はつるりとしていて冷たい。

くるりと器用に小さく丸くなって私のセーターに顔を押し付け「ぶーぶ、ぶーぶ」と音を出す。

犬はこんな声を出さない。

猫は、なんだか宇宙人くらい遠く感じる生き物だ。

でも、せめて彼らに対してだけは、私は清潔で温かくいつでも頼ることの出来る人間として存在していられる。


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救われているのはいつだって私の方なのだけど。

一握りの

日々は我慢と寛容と憎しみと一握りの愛で成り立っている。

同じものを食べ、同じ場所で呼吸をし、眠り、繰り返しつかうお箸、コップ、歯ブラシ、石鹸、カミソリ、耳掻き、爪切り、ボールペン、ファイル、印鑑、セーターやシャツや靴下。見たい番組、聴きたい音楽、出かけたい場所。帰ってくる場所。

一握りの愛は、これを捨ててしまえばもう何もかもが終わるよ、と常にささやく。しかも甘く。

日々は、私が眼を背けて生きるものばかりに囲まれている。

どうしたって勝てるわけなかったんだ。

 馬鹿だなぁ。

ユークが鍋を作ってくれた。

「おいしい日本酒と食べよう」

と冷蔵庫から日本酒を取り出す。

考えるとわからなくなるから考えない。

冷たいとろりとした液体を喉に流しこむ。

「おいしい」

懐かしい声をきいた気がした。

 



大事なこと

やけに言葉が胸に刺さる。

大事なものは大事にしなければいけないんだって、そんなのは当たり前のことなのに、耳たぶに新しくひとつ開いた穴が痛むので、まるでとてつもなく難しいことを宿題に出されたような気になってしまう。

その病院ではヘリックスは開けていないと言われたので、耳たぶの出来るだけ上の方に、とサインペンで印をつけた。

「もし印をつけ直したかったら、これで拭き取ってください」

と渡されたアルコール脱脂綿は使わなかった。

印をつけ直すことは出来ないなぁ。


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友達のお母さんが持たせてくれたトマトは皮がぱつっとしていて緑のいい匂いがして、綺麗だ。

「トマトが美味しい」

と口に出して言ってみる。大事なことだ。

猫たちが振り返る。